【香りで脳トレ】お香カードが生んだ、新しいコミュニケーション
▲リハビリ特化型デイサービス施設「げんき・須磨」様
兵庫県神戸市 社会福祉法人きらくえん様は、特別養護老人ホーム、ショートステイ、デイサービス、サービス付き高齢者住宅といった施設での支援はもちろん、居宅介護支援やホームヘルプなど、地域に根ざした事業を展開されています。
きらくえん様が手がけるリハビリ特化型デイサービス施設「げんき・須磨」様では2024年1月より、「くんくんくん」を用いて「香りの脳トレ」と題したトレーニング企画を行ってくださっています。
今回はこの企画について、企画いただいたスタッフ様とご利用者様にお話を伺いました。インタビュー後に利用者様と「くんくんくん」ゲームで遊んだ模様もレポートします。
「あきらめない」を支えたい。今、ここから始まる「香りの思い出」づくり
▲理学療法士の西川様(写真左)
松栄堂スタッフ:
今日はよろしくお願いいたします。理学療法士でおられる西川様と展示会で出会ったのがきっかけでしたね。まずは貴施設の特徴についてお伺いいたします。
西川様:
リハビリ特化型デイサービス施設「げんき・須磨」は、自分の足で歩く・自分のしたいことをするという、利用者さまの思いを支えるためにできた施設です。
老化に伴い、どんどんできることが限られていく中で、「あきらめない」という思いを支え、少しでも生活を豊かにするお手伝いができればという思いで日々運営しています。
運動機能の向上を目指したトレーニングマシンも多く導入しており、運動を行うために通うという目的が伝わりやすいデイサービスなので、ご家族も安心して送り出して下さっています。
松栄堂スタッフ:
「香りの脳トレ」として、香りのカードを導入いただいた経緯を改めて教えてください。
西川様:
神戸で行われていた展示会で見つけて衝撃を受けました。
一般的な脳トレやレクレーションといえば、ぬり絵やクイズなど、一人で黙々と取り組むものが多いと思うのですが、これなら目が見えにくかったり、耳が聞こえにくかったりする方でも楽しめるのではと思いましたし、トレーニングの選択肢が増えたように感じました。
「香りの神経衰弱」としてゲーム性もあり、利用者さんにも喜んでいただけるのではと思ったのがきっかけです。また、香りは記憶と密接に結びつくような気がしていて、こういう良い香りを楽しんでいただいたことを、この場所に通っていた思い出にしていただけたら良いなと思ったんです。
利用者さまの昔の思い出話を伺うのも楽しいのですが、今からの思い出を香りと一緒につくっていければと思っています。
誰でも参加できる「香り当てクイズ」。当たって嬉しい、外れて悔しいをみんなで楽しむ
▲作業療法士の森様
松栄堂スタッフ:
実際に企画として導入するまでの工夫や、ご利用者様の反応を教えてください。
森様:
カードの香りを施設で試している時に気づいたことですが、そもそも香りを感じる力が弱くなっている利用者さまもいらっしゃいました。実はいつも飲まれているコーヒーの味もわかっていなかった、と初めてそこで話題になることもありました。
香りに触れ続けることでどういう結果が出るかはわかりませんが、「かぐ」という行為は日常であまりありませんから、まずは3ヶ月間試してみようと思い、2024年1月からクイズ形式で始めています。
香りが必要以上に広がってしまうことを防ぐために、3つの香りを1枚ずつタッパーに詰めました。その中から同じ香りのカード1枚を、「今日の香り」として別のタッパーに詰めます。ひとつずつ香りをかいでいただき、「今日の香り」がどれか当てていただくというクイズです。
▲森様がご用意くださったクイズ用のセット
利用者さまの名前を書いたカードがあるので、3つのタッパーの後ろに置いた袋に投票していただいています。みなさんの投票が終わったら、「今日の香り」を発表するんです。
参加される方はしっかり嗅ぎ分けに集中してくださってますよ。答えの発表が待ちきれなくて、「どれに入れた?」「今日のは何番やと思う」と利用者さま同士和気あいあいと話されています。
ふだん無表情な方も当たったら笑顔を見せてくださったり、間違えて悔しそうにされている様子も見えたり、いつもと違う刺激になっていると感じます。
中には「いつもこれやるのが楽しみなのよ」とおっしゃる方もいらっしゃって、嬉しく思います。難しそうにされている方もいらっしゃいますが、コーヒーとか柑橘とか、わかりやすい香りではなく、お香という抽象的な香りなのも良いですね。
暮らしを豊かにする「香り」。利用者様同士のコミュニケーションにも
▲「自身の嗅覚がずっと気になっていた」とおっしゃるご利用者の藤川様
松栄堂スタッフ:
実際に「香りの脳トレ」を体験いただいているご利用者様にお話をうかがえるということで、貴重な機会をありがとうございます。差し支えない範囲で、藤川様と香りについて教えてください。
藤川様:
コロナ禍で家に閉じこもっている間に歩きにくくなってしまって、ケアマネジャーさんにこの施設を教えていただいてすぐに決めました。
綺麗で清潔だし、スタッフさんも優しいし、毎日でも来たいくらいです。もともとお香や香水が好きだったんですが、数十年前に匂いも味もわからなくなってしまったことがあって、治療を受けました。
そのときに、匂いや味がしない生活はなんてつまらないんだろうと思ったんです。治療後に初めて食事した時は感動して、涙が出るような思いでした。それが最近また、香りを感じにくくなった気がしていたので、この企画のことを聞いてとても嬉しかったんです。
松栄堂スタッフ:
実際やってみて、香りのトレーニングはいかがですか?
藤川様:
私はなかなか正解できないのですが、今でもいつも楽しみにしています。
他の利用者のみなさんとお話しするきっかけにもなりますし、「今日はどれだろうね」「私合ってたわー!」とか、やいやい言い合うのも楽しいです。もうすっかり大きくなってしまいましたけど、孫ともこれで遊んでみたいですね。
インタビュー後、香りを言葉で表現するゲーム「しつもん!くんくんくん」をして遊びました!「主役」の選んだ香りがどれか、質問を通してあてるコミュニケーションゲームです。
香りに包まれながら笑みのこぼれるひとときとなりました。
取材協力:社会福祉法人きらくえん様内「げんき・須磨」様